『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』電子書籍版配信開始
ガガガ文庫は有名タイトル以外、過去へ遡行していく形で電子書籍化していたので、長いこと本文イラスト入りの電子書籍版がなかった*1『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』ですが、ようやく電子書籍化されますよ。
偶然、発見したので、特に出版社から連絡はないのですが、18日から配信開始のようです。
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ついでに、内容紹介と当時の思い出話を少々。
『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』は、昭和で戦前の名作娯楽小説をトリビュートというか、ライトノベルとして脚色した「跳訳」シリーズ第一弾ですが、世界観や登場人物が『空想東京百景〈V2〉殺し屋たちの休暇』『空想東京百景〈V3〉殺し屋たちの墓標』と地続きになっている、なんともアマルガムな小説です。
ある意味、『空想東京百景』シリーズの外伝と言えるかも知れません。
2007年にレーベル創刊第二弾で刊行された小説でしたので、もう9年経っているんですが、なんでそんなおかしなコンセプトのシリーズを当時のガガガ文庫が出したのかというと、元々、レーベル創刊を企画したのは『IKKI』の江上英樹編集長*2で、『ファウスト』みたいなものを作りたかったらしいのですね。*3
なので、副編集長も当時の『IKKI』副編集長が出向されていて、佐藤大さんが出した「跳訳」シリーズという斜め上なネタも創刊記念企画として通ってしまった*4ので、誰か書けるひとはいないか、ということで、それまで縁もゆかりもなかったぼくがいきなり呼ばれたわけです。
創刊前夜はデザイナーやイラストレーターも足りなかったので、デザイナーさんはぼくのほうから『空想東京百景』シリーズのヨーヨーラランデーズさんにお願いいたしました。
そして「レトロフューチャーな作品なので、ロシア構成主義風というか、ムーンライダーズ『マニア・マニエラ』T.E.N.Tレーベル版の奥村靫正みたいな感じでお願いします」という無茶ぶり極まりないデザイン発注をやらかした*5のですが、いただいたデザインはさすがでした。
イラストレーターの宮の坂まりさんも、期待通りの素晴らしいイラストでした。今は別名義で乙女向けな漫画家さんをやっておられます。
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で、いきなりの無茶な企画ものの話に乗ったのは、レーベルの編集方針が『ファウスト』のライトノベル版というコンセプトで、母体となった『IKKI』も青年漫画誌でしたので、暴力描写や性描写も青年漫画誌基準で書いていいよ、ということが決め手でした。
2010年以降、文庫系で担当さんが付いているのが、青年漫画誌基準というかもっとマニアックなハヤカワ文庫JAだけですので、現在、そのあたりがどうなっているのかは知らないんですが、文庫系のライトノベルは基本的に少年漫画誌基準ですので、あんまり無茶なことはできなかったのです。
当たり前と言えば、当たり前のことなんですが、実際、それでいくつか文庫系のライトノベルレーベルでの企画が流れていたのですね。
とはいえ、担当さんが同じだった深見真さん*6は、もっとエロス&バイオレンスな『武林クロスロード』や『ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック』というドえらいものを書いていたので、ぼくはまだまだ甘いなァ、と思っておりました。
ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック ガガガ文庫 ロマンス、バイオレンス&ストロベリー・リパブリック
- 作者: 深見真
- 出版社/メーカー: 小学館
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ところが、創刊から一年ちょっと経ったあたりで社内でいろいろあったのか、レーベルの管轄が『IKKI』から『週刊少年サンデー』に移りまして、少年漫画誌基準になりました。
結果、ぼくはさておき、深見さんも書かなくなったので、やっぱり人類には早すぎる小説だったのかなァ、と。*7
単にその前後で担当さんが辞めたからってのもありますけど。
ちなみに、ぼくは小学館の漫画だと、今は亡き『ヤングサンデー』に連載されていた『殺し屋1』が大好きなんですが、年末のパーティーの二次会で、酔っ払っていた部長さんにそのあたりの話をしていたら、「君の小説、面白いけど、小難しいんだよ」「もっとぼくが手がけた『名探偵コナン』みたいな小説を書きなさい」「(逆ギレしながら)ゆうきまさみくんは天才なんだよ!」という説教をいただきまして一触即発になりかけたのも、いまとなっては実に良い思い出です。
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何はともあれ……というか、自分で言うのも何ですが、編集方針が変わる前の黒歴史っぽい案件だった『漆黒のアネット』までKindle化されたということは、 ガガガ文庫の既刊は創刊時まで遡って、すべて完全版の電子書籍で入手できるようになったのかな?
だとしたら、それはめでたいことです。
小説を書かなくなっても書店で見なくなっても、入手できるというのは、作家にとっては有り難いことですから。
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ぼくの小説に関しては、『空想東京百景』シリーズと『咎人の星』が既に電子書籍化されておりますので、あと『雲形の三角定規』が電子書籍化されますと、初期の習作を除く「ゆずはらとしゆき」全作品が電子書籍化されるのですが、いつになるのかなァ。